ライフスタイルに合わせた
華やぎと落ち着き。
一人ひとりの生き方に多くの選択肢がある現在、生活の場となる部屋のイメージも多様化している。それに伴い、庭という限られた空間の中にも、複数の表情が求められるようになってきている。
例えば、リビングから庭を見て、洋花の華やかな雰囲気を楽しみたい。一方、炉を切った茶室の前については、侘び寂の美しさを堪能したい。どちらの景色も満足させ、それでいて全体を見ても、違和感なくまとまっていてほしい。今回の依頼はまさにこのようなケースだった。
庭の二面性の設定にはいつも苦労するのだが、今回は石橋を渡し、表裏のある垣根を配することで、自然なつながりを表現した。一つの庭に異なる表情を共存させることは至難の業ではあるが、自然というものにはそもそも区切りなど存在しない。
さらに、私は常々、日本独特の美しい田園風景を残していくべきだと考えているのだが、その結果として今回は、棚田をイメージした段差のある花壇をつくった。
私は「お客様に庭の楽しさ・良さを知ってもらえる庭づくり」が住宅庭園をつくる者の役目であると思っている。今回のT邸も和と洋が融合した庭があるこの暮らしを愉しまれていると聞き、作庭家としての役割を果たせたのではないかと思っている。
使用材料および演出物
【樹木】シダレザクラ、アカシデ、ヤマモミジ、ハウチワカエデ、ヨシノスギ、アカマツ、サクラ、ベニマンサク、ツリバナ、セキショウ、ハイビャクシン、リュウノヒゲ、クマザサ
【演出物】透水石、相木石、筑波石、朝鮮型燈籠、袈裟型水鉢
当ページ写真「現代 ニッポンの庭 百人百庭」掲載