山中の趣を街中に感じる
コンパクトな空間。

幹肌の異なる雑木を配置して立体感を出しました。

JR中央線三鷹駅南口のほど近くに「三鷹庭園・茶道教室『松聲庵』」がある。駅に近いため、周りには高いビルが立ち並んでいる。
ある日、学園長から電話があり、「今、新しい茶室をつくる計画があるので考えてみてほしい」とのことで計画が始まった。建築が大方完成したときに、燈籠や手水鉢を選んでもらうことにもなり、学園長ご夫妻にそれぞれの説明をしながら好みのものを選んでもらうつもりでいた。
「いろいろ見たけれど、よく分からないから、あなたにお任せします」ということで、話は終わってしまった。 茶道教室であるから、入門したばかりに人から熟知した人まで幅広く親しんでもらわなくてはならない。それを踏まえて、多様に使えることを考えて作庭した。
「松聲庵」の玄関左側の角戸から路地に入ると、棗型の水鉢がまず目に飛び込んでくる。縁先手水のようにしたのは、蹲踞を使うにはちょっと足がつらい年配者などが蹲踞として使えるように、また室内から縁先に向かって正座して蹲踞ようの柄杓の扱いの稽古ができるように考えたからだ。路地をさらに先に進むと軒先が出た外待合になっているが、ここには縁台を取り付け、必要に応じて使い分けができるようになっている。
さらに奥に進むと枝折戸があり、その中が内露地である。周りのビルを隠すため、庭の広さに対して大きな木を選び、多めに植栽した。
これから茶道を始める人たちには、和のしつらえの美しさを知ってほしい。そんなことを思いながら作庭した。

外露地には種類の異なる石を組み合わせました。手水鉢は室内からも使えます。

玄関前は格を感じる石組みを。

山の風情を残した差石。

欠けを活かした燈籠は手前の雑木と合わせて侘びを感じさせます。

使用材料および演出物
【樹木】ヒノキ、サワラ、アカマツ、アカシデ、ヤマモミジ、シラカシ、ヒサカキ、オオバジャノヒゲ、リュウノヒゲ、クマザサ、ハラン、ベニシダ、ヤブコウジ
【演出物】水鉢/黒曜石、燈籠/黄梅院型、立手水/太閤石

当ページ写真「なごみ」2016年9月号掲載